民事執行法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告において請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることは許されないとして、これと異なる原審高裁決定を破棄し原審に差し戻した例
(最高裁2022(令和4)年10月6日決定 家庭の法と裁判43号47頁)

【事案の概要】
 婚姻中であった申立人X(女性・妻・母)と相手方Y(男性・夫・父) は二児をもうけたが、養育費債権者(親権者)をXとして離婚し、その際にYがXに将来定期的に支払うべき子らの養育費を定めた債務名義となる養育費支払等契約公正証書を作成した。
 本件は養育費の支払が遅滞してきたことから、Xが公正証書記載の養育費債権者として、民事執行法(以下「法」という。)197条1項2号(知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき)に該当するとして、債務者であるYについて財産開示命令の申立をした事案である。
 原々審(東京地裁)が申立を認めて財産開示命令の実施決定(原々決定)をしたのに対し、Yは、執行抗告をしたうえで、上記請求債権のうち確定期限が到来しているものについて弁済をした。
 原審(東京高裁)は、
 ①原審決定時点では未払はないと認められる。そうすると現時点において強制執行により弁済を得ることができる請求債権が存在することの疎明はないから、知れている財産に対する強制執行を実施してもその「完全な弁済を得られないこと」の疎明もないからXの申立は法197条1項2号の要件を充たすとはいえないから理由がない。
 ②Xは、法203条がこのような財産開示手続については法182条等を準用していないから請求債権の弁済による消滅は原決定に対する執行抗告に理由にはならないと主張するが、(略)Xの上記主張は、採用できない。
 として、原々決定を取り消し、Xの申立を却下した。

【決定の要旨】
 ①法197条1項2号に該当する事由があるとしてされた財産開示手続の実施決定に対する執行抗告においては、請求債権の不存在又は消滅を執行抗告の理由とすることはできない。
 ②法203条が法35条を準用していないことは、本件執行抗告において、債務者Yが請求債権の不存在又は消滅を主張することができる根拠とはならない。
 として、これと異なる原審高裁決定を破棄し原審に差し戻した。

【コメント】
 決定掲載誌コメントによれば、財産開示手続の実施決定に関し、執行裁判所の調査・判断の対象と同決定に対する執行抗告の理由について、最高裁の考え方を初めて示したものとされる。
 もっとも最高裁決定理由において「更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す」とされているが、原審で審理すべき対象は明確ではない。
 結果として、差戻後の原審決定前に、債務者Yは、最高裁決定理由に記載の「請求異議の訴え又は請求異議の訴えにかかる執行停止の裁判の手続において請求債権の不存在又は消滅を主張し、法39条1項1号、7号等に掲げる文書を執行裁判所に提出することにより財産開示手続の停止又は取消しを求める」ことができる時間的猶予を得たことになった。
 なお、地裁決定は、期限未到来の将来債権を含めた債権者としてXの財産開示命令申立を認めているように考えられる。
 東京地裁のウェブサイトに載っている同地裁民事第21部の説明は、財産開示命令申立ての要件として、「請求が確定期限の到来に係る場合は,その期限が到来していること(民事執行法30条1項)等の執行開始要件を備えていることは,通常の強制執行の場合と同様です。」となっており、もし将来債権者としての申立人適格を認めたものであるとすれば、この決定には疑問が残ると思われる。