被相続人父から長男に対する被相続人父の遺産である共同住宅及びその敷地の贈与について、負担付贈与であるとして、贈与時の総価額から長男の引受債務の額を控除した額に相当する部分につき特別受益に当たるとして、これを遺産額に持ち戻した事例
 【東京高裁令和5年12月7日決定 家庭の法と裁判53号59頁】

【事案の概要】
 被相続人父及び被相続人母の相続人である二男が、相相続人である長男及び長女に対して、被相続人両名の遺産について遺産分割の審判を求めた事案(A事件)、長男が、被相続人父の遺産である共同住宅の維持又は増加について特別の寄与をしたとして寄与分を求めた事案(B事件)である。

【争点】
 ①被相続人父が長男に対してした負担付贈与が実質的な単純贈与といえるか否か
 ②負担付贈与がなされた場合における「贈与の価額」の計算方法
 ③被相続人父の長女に対する援助や不動産持分の贈与について持戻免除の意思表示を推認すべきか否か
であるが、その全部を解説をすると長くなるので、本件コメントは、①に限定する。
詳細は、掲載誌をご覧いただきたい。

【事実の要旨】
 1 被相続人父は、収益物件である共同住宅を建築するため、金融機関から2600万円を借り入れ(「本件債務」)それを被担保債務として共同住宅(「本件共同住宅」)及びその敷地に抵当権を設定した。
 2 その後、被相続人父及び長男は、長男が本件債務(残元金2481万2000円)について免責的債務引受をすることを条件に被相続人父が長男に対して本件共同住宅及びその敷地を贈与する旨の負担付贈与契約(「本件贈与」)を締結した。
 3 長男は、本件共同住宅の収益である賃料収入を原資に、利息を含め総額約4045万円を支払って本件債務を完済した。
 4 被相続人父及び被相続人母の相続人である二男が、長男及び長女に対して、被相続人両名の遺産について遺産分割の審判を求め(A事件)、それに対して長男が、被相続人父の財産の維持又は増加について特別の寄与(上記債務引受と父の債務の弁済による遺産の維持)をしたとして寄与分を求めた(B事件)。

【原審横浜家裁決定要旨(単純贈与)】
 1 B事件申立人長男は、本件贈与後も被相続人父名義の預金口座を用い、同口座に入金される本件共同住宅の賃料収入を原資として本件債務の弁済をしたこと
 2 本件共同住宅の税金等に支払手続は被相続人父が行っていること
 3 事件申立人長男は、本件債務完済後の本件共同住宅の賃料収入を取得したこと
等に鑑みB事件申立人長男が免責的に引き受けた本件債務を本件贈与の負担の価額として控除することは相続人間の公平に照らし相当でなく
 本件贈与は負担付ではない単純贈与であり本件共同住宅及びその敷地の相続開始時の評価額3335万円全額を長男の特別受益として遺産に持ち戻すのが相当である。

【本件抗告審決定要旨(負担附贈与)】
1 本件贈与の目的物は、本件共同住宅及びその敷地であり、本件贈与契約締結後の発生する賃料収入は、その目的物ではなく、遺産分割において持戻しの対象とはならないところ、長男は本件贈与により本件共同住宅及び敷地の所有権を取得したのであるから、本件贈与後に発生する本件共同住宅の賃料債権が長男に帰属することは明らかである。
 これを原資として行われた本件債務の弁済は、長男の計算において行われたものである。
2 長男は、本件債務を支払うことになるリスクを負担していたもので、経済的負担がないとはいえない。

【コメント】
1 収益物件につき抵当権が設定され、受贈者が被担保債権につき免責的債務引受をする代わりに当該収益物件の贈与を受け、被担保債務を当該収益物件の賃料収入から弁済する事例は世間によくあることであるが、この場合、実質的に受贈者の経済的負担はないとして、単純贈与であると主張されることがよくある。
2 しかし、受贈者は、免責的債務引受により債務を負担することになるうえ、将来にわたり確実に賃料収入が得られる保証もないので、当該贈与について実質的に負担付きであることは明らかであるし、収益物件が贈与された時点では、将来分の利息債権は未発生であるので、贈与後に発生する賃料債権は当該収益物件の所有者(受贈者)に帰属するから受贈者の経済的負担はないと評価するのが困難であるのは、抗告審決定のとおりである。