婚姻費用分担額の算定に当たり、生活保護費を収入と算定することはできないとした例

【事案の概要】
 相手方(妻)が抗告人(夫)に対し、婚姻費用分担金の支払いを求めたところ、抗告人は、①相手方が受給している生活保護費は税金により賄われる生活費の支払であり、就労先の代わりに税金から支給される収入として扱われるべきである、②相手方は調停及び審判手続において、心身ともに就労可能な程度の状態に回復しており就労可能な程度の状態に回復しており就労能力があり、審判移行後に1か月間就労した実績があること、相手方に就労能力がないことを示す客観的な証拠が提出されていないことに鑑みると、賃金センサスによる平均賃金を得る潜在的稼動能力がある旨主張した。
〔東京高等裁判所2022(令4)年2月4日決定 家庭の法と裁判41号60頁〕

【決定の概要】
①については、「生活保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われ、民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべての生活保護法による保護に優先して行われるものとされている(生活保護法4条1項、2項)のであるから、相手方及び子らに対して民法上扶養義務を負う抗告人による婚姻費用の分担額を算定するに当たっては、相手方が受給している生活保護費を相手方の収入と評価することはできないというべきである。」
②については、「相手方は、月1回程度の割合で精神科に通院していること、平成○年○月から精神の障害により障害基礎年金を受給しており、障害等級は2級16号(精神の障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度以上のもの(国民年金法施行令4条の6、別表))と認定されていること、令和○年○月、主治医には相談せず、自らの判断で、週3日から4日程度、1日当たり4時間の就労を開始してみたものの、勤務先の人間関係に悩んで体調を崩し、1か月で就労を断念したこと、主治医からはしばらく静養したほうが良いと言われており、今後の就労の見通しも立っていないことが認められる。以上のような相手方の病歴や障害等級、就労実績、医師の見解、現在の状況に鑑みると、相手方は、少なくとも当面は就労することが困難であるというべきであり、現時点においては潜在的稼動能力があるとは認められない。」
原審判は相当であるので、本件抗告を棄却する。