元夫が元妻に対し、離婚等公正証書に基づく養育費支払義務の審判事件及び調停事件を本案として、強制執行停止を求める保全処分を申し立てた事案において、従前の債務名義に基づく強制執行を求めるため、請求異議訴訟を提起しなければならないと解することは義務者に不要な負担を強いるものとして、保全の必要性を判断した事例

【東京高等裁判所2021(令3)年5月26日決定 家庭の法と裁判43号82頁】

【事実の概要】
抗告人が、離婚した元妻である相手方に対し、公正証書第3条第1項において定められた抗告人の養育費の支払義務について、その減額を求める審判事件及び調停事件を本案として、同条項に基づく強制執行に停止を求める事案。
原審は、請求異議の訴えにおいて、養育費を減額する黙示の合意があった旨の実体上の事由を主張祖いて、執行力の排除を求めることができるので、本件申立は保全の必要性を欠くとして抗告人の申立を却下した。

【決定の概要】
相手方は抗告人に対し、養育費について未払いがあるとして、代理人弁護士を通じて強制執行手続に移行するとの通知をしているのであるから、抗告人の急迫の危険を防止するため、強制執行を停止する必要性が認められる。
抗告人が公正証書第3条第1項に基づく強制執行を停止する方法としては、同債務名義に基づく強制執行の不許を求める請求異議訴訟を提起し、併せて強制執行の停止を申し立てることも考えられる。しかし、養育費の額を争い、新たな養育費の内容をさだめることを求める事案の解決としては、家庭裁判所の調停又は審判によるのが相当。
したがって、新たな養育費の内容を定める前提として、従前の債務名義に基づく強制執行の停止を求めるため、請求異議訴訟を提起しなければならないと解することは、義務者に不要な負担を強いる者であり、適当とは言い難い。