東京家裁令和4年4月28日判決(離婚請求事件)
タイトル:有責配偶者の離婚請求
東京家裁令和4年4月28日判決・家庭の法と裁判56号57頁
婚姻費用分担金の不払等が婚姻破綻の有責性を基礎づけるとした裁判例
【事案の概要】
X(原告):夫
Y(被告):妻
A:長男
B:次男
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 平成18年6月  | 
 XとY、婚姻。A及びBが出生。  | 
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 平成24年8月頃  | 
 XとY、X所有のマンションKの一室に転居。  | 
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 平成28年2月頃  | 
 X、所有するマンションKの一室を売却。  | 
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 平成28年4月頃  | 
 X、マンションLの一室を賃借し、XとYはそこへ転居。  | 
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 平成29年7月頃  | 
 X、マンションMの一室を賃借して転居。X・A・Bとの別居を開始。  | 
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 平成29年12月頃  | 
 X、マンションNの一室を購入。  | 
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 平成30年1月頃  | 
 X・A・B、マンションLからマンションNへ転居。同年2月以降、XはYに生活費・養育費として月46万円を送金し、その都度YはXに対し賃料23万円を送金するようになる。  | 
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 平成30年7月  | 
 X、Yに対し、離婚調停を申立て。Xは、平成31年1月に28万円を送金した後、一切婚姻費用を支払わなくなり、Yも賃料月額23万円を支払えなくなる。  | 
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 平成30年12月  | 
 離婚調停、不成立終了。  | 
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 令和元年8月  | 
 X、Yに対し、マンションNの賃料月額23万円の支払を求める訴訟を提起。  | 
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 令和元年10月  | 
 Y、Xに対し、婚姻費用分担調停を申立て。  | 
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 令和3年3月  | 
 婚姻費用分担調停、不成立終了、審判移行。同年7月、XがYに1か月あたり25万8000円の婚姻費用を支払うよう命じる審判。(Xは即時抗告するも棄却、確定)  | 
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 令和3年4月  | 
 X、Yに対し、離婚請求訴訟(本件訴訟)を提起。  | 
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 令和3年6月  | 
 賃料請求訴訟、請求棄却。(Xは控訴するも棄却、確定)  | 
【争点】
①婚姻破綻の有無
②離婚請求の可否(Xは有責配偶者に該当するか)
【裁判所の判断】
①婚姻破綻の有無
「Xは平成29年7月●日にY並びにA及びBとの別居に踏み切っており、XとYとの別居期間は、本件口頭弁論終結時において、4年6か月を超えるものになっているところ、これだけの期間に及ぶ別居の継続は、それ自体がXとYとの婚姻関係の破綻を基礎付ける事情であるといわざるを得ない。」
②離婚請求の可否
「XとYとの別居期間が4年6か月を超え、その婚姻関係が破綻するに至った原因は、一方的にYとの離婚を実現させようとしたXが、Yとの別居に踏み切るにとどまらず、Yに対して婚姻費用の分担義務を負っていることを顧みることなく、兵糧攻めともいうべき身勝手な振る舞いを続け、婚姻関係の修復を困難たらしめたことにあったと認めるのが相当である」から、「XとYとの婚姻関係の破綻について主として責任があるのは、Xであるというべきである。」
「そうすると、Xは有責配偶者に当たるというべきところ、XとYとが婚姻の届出をしてから別居を開始するまでの期間は11年程度であるのに対し、原告と被告とが別居を開始してからの期間は4年6か月を超えた程度にすぎないこと、(中略)XとYとの間に未成熟の子が存在していること、A及びBの監護養育に当たっているYは、令和2年には194万円程度の給与収入を得ていたにすぎず、Xと離婚して婚姻費用の支払を受けることができなくなった場合には、経済的に極めて過酷な状態に置かれることが想像されることなどの事情に照らすと、Xの離婚請求は、信義誠実の原則に反するものであるというのが相当である。」
【コメント】
 婚姻費用の支払を停止して相手方を経済的に追い詰めることが婚姻破綻の有責性を基礎づけるとした点で注目される。もっとも、本件では婚姻費用の支払停止にとどまらず、自身が所有するマンションに居住する配偶者に対して賃料支払請求訴訟を提起するなどした事情もあり、これらの事情を踏まえXの有責性を肯定したものと思われる。
