事情変更を理由として養育費増額を認めたが、未払の養育費請求は家事審判手続ではできないとした事例
【東京高決令和6年11月21日 家庭の法と裁判57号50頁】
【事実の概要】
抗告人X(原審相手方)と相手方Y(原審申立人)は、未成年者Zをもうけた後、母であるYを親権者と定め、XがYに対し、Zが満20歳に達する日の属する月まで毎月2万円の養育費を支払う旨合意(以下、「本件合意」という。)してH29に離婚した。その後、Yは、令和4年6月に養育費の増額等を求める調停を申し立てたが不成立となり審判に移行した。民法766条2項は、離婚の際の養育費の額等の協議が調わないときに家庭裁判所がこれを定める旨規定しているところ、原審は、本件合意が債務名義となっていないことを理由として、本件合意によって定められた養育費の額の変更の当否を検討するのではなく、本件合意の存在を考慮せずに、XがYに支払うべきZの養育費の額を独自に定めるのが相当であるとした上で、Xに対し、調停が申し立てられた月である令和4年6月から原審判の日の属する月の前月までの11か月分35万2000円及び同年8月からZが満20歳に達する日の属する月まで毎月3万2000円をYに支払うことを命ずる審判をした。Xは、原審判を不服として即時抗告した。
【本決定の概要】
本決定は、原審判を変更し、本件合意によって定められた養育費を令和4年12月以降月額3万1000円に変更し、Xに対し、Zの養育費として、同月から令和6年10月までの23か月分71万3000円及び同年11月からZが満20歳に達する日の属する月まで毎月末日限り3万1000円をYに支払うことを命じる旨の決定をした。なお、本決定は、Yが、変更前の本件合意によって定められた養育費の未払分の支払を求めた点については、「本件合意によって定められたとおりの養育費の支払を求めるのであれば、家事審判手続ではなく、Xを被告とする民事訴訟手続によるべきである。」と判示してYの主張を認めなかった。
養育費の増額を認めた理由について、本決定は、「家庭裁判所は、養育費の額について協議された場合であっても、協議の際に基礎とされた事情に変更が生じた結果、協議の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には、事情の変更があったものとして、協議の内容を変更することができる(民法880条参照)。」と判示し、かつ、本件合意の後、①Xは約100万円の借入があったのを令和3年末ころまでに完済したこと、②XはYとの離婚後に別の女性と結婚して子供をもうけた後、離婚し、養育費を支払うこととなったこと、③Xは本件合意当時には手取り月額25万円程度を稼いでいたが、本件調停申立時には月額10万円ないし12万円程度の収入となり、令和4年12月以降には月額32万円の給与収入を得るようになったこと、④Yは本件合意当時就労しておらず収入がなかったが、離婚後に就労したものの本件調停申立時には疾病のため就労しておらず、月額13万円の傷病手当を受給していたといった事情の変更が生じたと認められる。「本件合意後の事情の変更を踏まえると、仮に改訂標準算定方式を適用した場合にXが分担すべきことになるZの養育費の額は、月額3万1000円であり、これは本件合意によって定められた養育費の額と大きく異なるといえる。したがって、本件合意後の事情の変更によって、本件合意で定められた養育費の額が実情に適合せず相当性を欠くに至ったというべきであり、本件合意によって定められた養育費の額を変更するのが相当である。」とした上、「養育費の変更の始期については、上記①から④までの事情の変更が全て生じた令和4年12月とするのが相当である。」と判示した。
【ひとこと】
原審は、民法766条2項の解釈によって、養育費の増額のみならず未払となっていた養育費についても一括して家事審判手続で解決しようとしたが、本決定は、これを否定した。
