被相続人から不動産購入資金の援助を受けたと認定した事案につき、不動産の贈与と同視すべきであるとまではいえず、援助額の贈与として特別受益に該当するなどとして原審判を破棄した事例
【東京高決2024(令6)年12月18日 家庭の法と裁判60号138頁】

〔事案の概要〕

 本件は、令和2年に死亡した被相続人の2人の子(法定相続分は各2分の1)が、それぞれ様々な特別受益を主張して熾烈に争った遺産分割の事案である。
原審は、➀申立人(X)が甲不動産の購入資金の全てを自ら拠出した旨主張したのを排斥して、被相続人が甲不動産の購入資金を援助したと認定すると共に、甲不動産の購入資金という使途を明確にして金員をX に贈与したのみならず、甲不動産を見学するなどしてその選定にも関与し購入を了解しているのであるから、実質的にはXに対して甲不動産を贈与したものと認められるので、その不動産評価額8210万6250円の特別受益があると判示した。
 また、➁相手方(Y)は、被相続人所有地に、被相続人と共に3階建ての一棟の建物(乙建物)を建築し、1階部分を被相続人が所有し、2、3階部分をYが所有していたから、同土地を無償で使用していたことが認められるが、Yとその妻は乙建物をいわゆる二世帯住宅として使用し、被相続人とともに居住していたことが認められるのであって、Yによる土地の無償使用によって被相続人もまた居住の利益を得ていたことを考慮すれば、黙示の持戻し免除の意思表示が認められる旨判示した。
 さらに、➂X又はYの主張するその他の様々な特別受益につきいずれも認められないとした上で、乙建物の1階部分及びその敷地のほか、金融資産もすべてをYに取得させ、その代償として、YはXに対して代償金4089万2005円の支払を命じる旨の審判をした。
 これを不服とするXが即時抗告した。

〔本決定の概要〕

 本決定は、➀甲不動産につき、Xとその元夫の陳述を比較するなどして詳細な事実認定を行い、原審と同様、Xの主張を排斥し、被相続人が甲不動産の購入残代金27万7400ドル(購入代金額は27万7900ドル)を贈与したと認めた。その上で、本決定は、「甲不動産の買主はXであり、被相続人ではなく、被相続人は資金援助をしたに過ぎない。」「被相続人が残代金のほぼ全額を援助したものであるとしても、当然にその資金援助を不動産の贈与と同視すべきであるとまでいえるか疑問がある。」「本件記録の資料を総合しても、上記資金援助について不動産の贈与と同視すべきであるとの結論には至らない」旨判示して、原審と異なり、資金援助額の特別受益であるとし、持戻し免除の意思表示も認めなかった。
 次に、本決定は、➁の被相続人所有土地の無償使用について、鑑定の結果などにより、その使用借権相当額が2640万円と評価され、その金額に照らし、Yの特別受益に当たり得るものというべきであるとした。しかしながら、乙建物は当初から二世帯同居住宅として建築されたものであり、被相続人が老健施設に入居するまで、Yはヘルパー等と共に被相続人の生活の支援を行ってきたことも認められるとして、原審と同様、黙示の持戻し免除の意思表示があったと認めた。これに対し、Xは、Yから何ら面倒もみてもらえなかったなどの被相続人の生前の言動を指摘して、「被相続人が使用借権に相当する利益を受けていたとは認識しておらず、持戻し免除の意思表示を認めるのは不当である」旨主張したが、本決定は、「客観的にみてYとの同居により被相続人が利益を得ていたことは否定できない。」などとして、持戻し免除の意思表示があったという認定を覆すことはできないとした。
 さらに、本決定は、➂X又はYの主張するその他の特別受益について、原審と同様、いずれも認められないと判示し、甲不動産の購入資金援助額27万7400ドルについて、甲不動産の決済日の為替レートで日本円に換算した上、平成10年の消費者物価指数97.6と令和2年の消費者物価指数100との貨幣価値の変動を考慮して、特別受益額を3260万5869円と認定した。その上で、本決定は分割方法につき原審判を一部変更して、金融資産の一部をXに取得させた上、YがXに支払うべき代償金額を1800万2347円とした。

(ひとこと)

 遺産分割で争われることの多い特別受益の認定について、詳細な証拠の評価をして判示し、また、不動産購入資金の拠出者と買主の認定との関係についても判示したものであって、実務上参考となる。