犯罪被害者と同性の者が、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得るとした例
(最高裁第三小法廷令和6年3月26日判決・家庭の法と裁判52巻48頁)
【事案の概要】
平成6年頃 | 上告人X(男性)は犯罪被害者(男性)との交際開始、この頃同居も開始 |
平成26年12月22日 | 第三者の犯罪行為により被害者死亡 |
平成28年12月 | Xが、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下「犯給法」という)5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」(以下「本件対象者」という)にあたるとして遺族給付金の支給の裁定を申請 |
平成29年12月 | 愛知県公安委員会から遺族給付金を支給しないとの裁定 →Xは愛知県に対して裁定の取消しを求めた |
令和2年6月4日 | 一審名古屋地判決:Xの請求棄却 |
令和4年8月26日 | 原審名古屋高裁判決:Xの控訴棄却 |
【争点】
- ① 犯給法5条1項5号括弧書きの本件対象者は、婚姻の届出ができる関係であることが前提であり、犯罪被害者と同性の者は該当しないのか
- ② 上記①で同性の者が該当しないとすると、犯給法5条1項1号は憲法14条1項等に反するか
【裁判所の判断】
争点①について、以下のように述べて原判決を破棄し、Xが被害者との間で本件対象者に該当するか否かにつき審理を尽くすよう、原審に差し戻した。
- 犯罪被害者等給付金の支給制度の目的は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することであり、犯給法5条1項1号の解釈にあたっては同目的を十分に踏まえる必要がある。
- 犯給法5条1項1号が括弧書きで本件対象者を掲げているのも、婚姻の届出をしていないため民法上の配偶者に該当しない者であっても、犯罪被害者との関係や共同生活の実態等に鑑み、事実上婚姻関係と同様の事情にあったといえる場合には、犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられるからである。こうした打撃を受け、その軽減等を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない。犯罪被害者と同性の者であることのみをもって本件対象者に該当しないとすることは、犯給法5条1項1号括弧書きの趣旨に照らして相当でないし、また、本件対象者に犯罪被害者と同性の者が該当し得ると解しても文理に反するとはいえない。
よって、犯罪被害者と同性の者は、犯給法5条1項1号括弧書きにいう本件対象者に該当し得ると解するのが相当である。(補足意見、反対意見あり)
【コメント】
補足意見にあるように、本判決はあくまで犯給法の受給権者にかかる解釈を示したもので、同一または類似の文言が用いられている法令の規定については個別に当該規定の趣旨に照らして解釈されるべきとされており、『いわゆる同性婚を認める』等と判断したものではない。