婚姻費用分担請求事件において、妻は年金収入を得ており、夫は当初年金収入と事業収入を得ていた場合、いわゆる標準的算定方式の適用にあたり、年金収入を給与収入に換算する場合には、職業費の支出を考慮する必要がないことから、年金額を(1-職業費の割合)で除して修正計算をし、事業収入に換算する場合には事業収入が既に職業費に相当する費用を控除済みであることから、修正計算は必要ないとし、事業収入と年金収入を合算した事例

【東京高等裁判所2022(令4)年3月17日決定 家庭の法と裁判42号46頁】

【事実の概要】
抗告人(妻・原審申立人)は、相手方(夫・原審相手方)と令和2年6月から別居を開始し、同月、生活費を請求する書簡を送付し、令和3年3月、婚姻費用分担請求の調停を申 し立てたが(当事者間に監護を要する子はいない)、不成立になり、審判手続に移行した。 抗告人は別居当時から無職、老齢年金が唯一の収入で、令和2年10月から令和3年4月まで合計約26万円、年額に換算すると約39万円。
相手方は令和3年8月まで自営業による事業収入と年額約144万円の公的年金を受給。

【決定の概要】
年金収入は職業費の支出を考慮する必要がないため、近時の統計資料に基づく総収入に占める職業費の割合(おおむね18~13% 高額所得者の方が割合が小さい。)のうち、15%を採用して給与収入に換算すると、抗告人の収入は概ね年額46万円(約39万円÷(1-0.15)=約46万円)となる。
相手方は、令和3年8月まで事業収入と年金収入があった。相手方の令和2年中の売り上げは約382万円、差し引くべき売上原価及び経費の合計は約285万円(うち減価償却費約63万円)、差引後の残額は約96万円であり、同額から青色申告特別控除額65万円を控除した所得金額は約31万円、同額から社会保険料、配偶者控除、基礎控除を控除した課税される所得金額は0円。
そうすると、相手方の事業収入は約31万に現実に支出されていない青色申告特別控除額65万円及び減価償却費約63万を加算した約160万円から社会保険料約12万円を控除した年額約148万円。
事業収入は職業費に相当する費用を控除済みのため、年金収入を事業収入に換算する際も、修正計算は必要ない。したがって、相手方の令和3年8月までの収入は、事業収入に換算すると、年額292万円(=約144万円+約148万円)に相当。
相手方は令和3年9月以降の年金修習を給与収入に換算するとおおむね年額約169 万円(=約144万円÷(1-0.15))
双方の収入額を算定票10に当てはめると、令和3年8月までは婚姻費用4から6万円となる。令和2年6月から令和3年8月までの婚姻費用の総額は90万円。
令和3年9月以降は、婚姻費用は2から4万円となり、諸事情から月額3万8500円の婚姻費用を分担させるのが相当。