子の監護者指定・引渡についての審判前の保全処分を認めた原審判に対する抗告審において、原審判が取り消され、事件が原審に差し戻された事例
【東京高裁令和5年3月15日判決 家庭の法と裁判52巻90頁】

【事案の概要】
抗告人X(父)、相手方Y(母)、子3人(長女(小学生)、二女及び長男(保育園児))
XとYは共働き夫婦で家事や育児を分担し、近所に住むXの両親の協力も得ていた

令和4年10月

Yが単身で家を出て別居

令和4年10月

別居から8日後、Yが子らの監護者指定・引渡審判(本案事件)の申立て※
あわせて審判前の保全処分の申立て

令和4年11月

子らの監護者を仮にYと指定し、子らをYに引き渡すよう命じる審判(原審判)
Xは即時抗告
Yは原審判を債務名義として子らの引渡し執行申し立て

令和5年1月

子らの引渡し強制執行に着手。長男は引渡しが実施されたが、長女と二女はYに対する拒否的態度のため執行不能として終了

 ※ 抗告審の決定時点で本案事件は原審裁判所に係属中

【争点】 
 保全処分を認めるための、①本案事件の申立てが認容される蓋然性及び②保全の必要性(強制執行を保全し、又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき、家事事件手続法157条1項)が疎明されているかどうか

【裁判所の判断】

  • 審判前の保全処分として子の引渡しが命じられた場合、強制執行自体が子に精神的苦痛を与えること、さらに後の本案事件で異なる判断がなされると数次の強制執行によりさらに子に精神的苦痛や緊張を与えることから、②保全の必要性については、現に子を監護する者が監護に至った原因が強制的な奪取又はそれに準じるものかどうか、虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他子の福祉のために必要かどうか、本案審判の確定を待つことにより子の福祉に反する事態を招くおそれがあるかどうかを審理し、その他の事情と総合的に検討し、審判前の保全処分により子の引渡しの強制執行がやむを得ないと認められるような必要性があることを要する
  • Xが子らを監護するに至った原因は強制的な奪取またはそれに準じるものではないから、上記①及び②について疎明があるかどうかの判断においては、子らをいずれの監護に服させることが子らの福祉に最もかなうか、現状の監護状況を維持した場合に子らの福祉に反する事態が生じるか等の点を審理判断する必要があり、Xの監護状況や環境、Yが予定する監護環境等について的確な資料によって評価する必要がある
  • Xの監護の状況や環境や、Yの予定する監護環境等については家庭裁判所調査官による調査等が望まれる
  • さらに、長男の引渡しが実施された一方で長女と二女の引渡が執行不能となった事情のもとでは長女や二女の心情について行動科学等の知見を踏まえた調査をするなど慎重な審理を要する

などと述べ、現状の資料では上記①及び②のいずれについても明らかではないとして、Yの申立ての却下ではなく、原審判を取り消し、更に審理を尽くす必要があるとして原審に差し戻した