被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができない者
【判決要旨】
被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができない。
【出典】
最高裁判所第三小法廷令和6年11月12日判決
掲載誌 家庭の法と裁判 No.58/2025.10 64頁
民集78巻6号1377頁
事件名 不動産登記申請却下処分取消請求事件
裁判結果 原判決破棄控訴棄却で第一審原告らの請求を棄却した第一審判決確定
【事案の概要】

・被上告人X1,X2は、いずれもBとその夫との間に出生した子であり、本件被相続人Cは、Bの母の姉であるDの子で、Bは、被上告人らの出生後の平成3年にDとの間で養子縁組し、これにより本件被相続人の妹となった後、平成14年に死亡しました。
・本件被相続人は、平成31年に死亡しましたが、子その他の直系卑属及びB以外の兄弟姉妹はおらず、死亡時においては直系尊属及び配偶者もいませんでした。
・被上告人らは、令和2年6月22日、民法889条2項で準用する同法887条2項の規定によりBを代襲して本件被相続人の相続人となるとして、本件被相続人の遺産である土地及び建物につき、相続を原因とする所有権移転登記及び持分全部移転登記の各申請をしました。
・横浜地方法務局川崎支局登記官は、同年9月2日付けで、各申請は不動産登記法25条4号の「申請の権限を有しない者の申請」に当たるとして、却下する旨の決定(「本件各処分」)をしました。
・本件訴訟は、被上告人らが、上告人国を相手に、本件各処分の取消しを求める行政訴訟です。
【本判決理由】
⑴ 第一審の横浜地裁令和4年4月13日判決は、条文の趣旨等から、被相続人の兄弟姉妹の代襲相続については、代襲相続人が被相続人及び被代襲者の共通の親の直系卑属である必要があるとの解釈を示し、本件については、被代襲者Bは被相続人Cの従妹であり、両者の親は異なるため、Bの子であるX1らは、代襲相続人にはなれないと結論付けました。
(2)控訴審の東京高裁令和5年1月18日判決は、条文の文言からして、第一審のような限定的な解釈を行うことは困難であるとして、原判決を破棄し、X1らが代襲相続人にあたるとして、同人らの請求を認容しました。
(3) 最高裁は、民法887条2項ただし書は、被相続人の子が被相続人の養子である場合、養子縁組前から当該子の子である者(いわゆる養子縁組前の養子の子)は、被相続人との間に当該養子縁組による血族関係を生じないことから、養子を代襲して相続人となることができないことを明らかにしたものである。そうすると、民法889条2項において準用する同法887条2項ただし書も、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親の養子である場合に、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生ずることのない養子縁組前の養子の子(この場合の養子縁組前の養子の子は、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者に当たる。)は、養子を代襲して相続人となることができない旨を定めたものと解されるとして、控訴審判決を破棄し、控訴を棄却した結果、第一審の請求棄却判決が確定しました。
【解説】
(1) 代襲相続とは、相続人となるはずであった者が、相続開始前に死亡し、または相続欠格や廃除により相続権を失ったとき、その者の子がその者に代わって相続することです。
ただし、相続人となるはずであった者が相続放棄した場合は代襲相続にはなりませんので注意が必要です。
(2) 子が相続人となるべき場合の代襲相続については民法887条2項に定められており、兄弟姉妹が相続人となるべき場合については、民法889条2項で民法887条2項が準用されています
民法887条2項
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき……は、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
民法889条
1 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
② 被相続人の兄弟姉妹
2 第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する。
(3) 民法889条2項で準用される民法887条2項には、そのただし書きに「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」(=被相続人の直系卑属に限る)とされています。
(4) 本件の特殊性は、X1,X2は、養子縁組前に出生した子であるところにあって、このような場合にX1,X2が被相続人の直系卑属に該当するか否かが本件の唯一の争点です。
もし控訴審判決のような解釈を採用してしまうと、養子の子X1らは、養親Dの相続に関しては、養子Bを代襲し得ないのにもかかわらず、養親Dの子Cの相続になると、代襲相続人として相続の権利を有するということになります。
積極、消極どちらの説が正しいか解釈が定まっていなかったため、第一審と控訴審で結論を異にし、先例裁判例もなかったので相続の範囲が広がりすぎないように最高裁が初めて厳格に判断したものと思われます。
分かりやすく整理すると、養子縁組前の養子の子であるX1らのように、被相続人Cとその兄弟姉妹Bの共通する親Dの直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないということです。
