A 親権については、どんな改正があったのですか?

B 親権の改正は、長くなるので、今回は親権者の指定、次回は親権者の変更と共同親権における子の監護の2回に分けて勉強することにしましょう。

  改正前の民法では、父母の婚姻中は、親権は父母が共同して行う(共同親権)と定められています(現行民法818条3項本文)が、離婚する際には、父母のどちらか一方のみを親権者(単独親権)と定めなければなりませんでした(同法819条1項、2項)。

A 改正法では離婚後も共同親権になったのですよね?

B よく知っていますね。

  正確にいうと、今回の改正により、離婚後は、共同親権とすることも、単独親権とすることも選択的に決められるようになりました(改正民法819条1項、2項)。

A どうやって決めるんですか?

B 協議離婚の場合は、父母が、その協議により、原則として協議離婚届けを提出する際に、親権者を父母双方とするか、その一方とするかを定めます。

A 私の知っている夫婦は、離婚することは合意できたのですが、子の親権者を誰にするかの意見がまとまらないために協議離婚届が提出できていません。

B 改正民法では、家庭裁判所に、親権者の指定を求める家事審判(裁判の一種)又は家事調停を申し立てていれば、親権者を決めない状態で離婚届が出せるようになりました(改正民法765条1条2項)。

A 離婚届を出したあとは、どのように親権者が決められるのですか?

B 家事調停では、父母の協議で決めることになりますが、調停が成立しないときは、家庭裁判所が家事審判で決めることになります。

 家庭裁判所は、父母と子との関係や父と母との関係などの様々な事情を考慮したうえで、子の利益の観点から、親権者を父母双方(共同親権)とするか、その一方(単独親権)とするかを決めます。この裁判手続では、家庭裁判所は、父母それぞれから意見を聴かなければなりませんし、子の意思を把握するよう努めなければなりません(家事事件手続法65条)。

A 共同親権になることが多くなりそうですか?

B 共同親権と単独親権に優先順位はありません。家庭裁判所は子の利益のため、父母と子の関係その他一切の事情を考慮して、共同親権とするか単独親権とするかを決めます。

  ただ、次のいずれかに該当するときは、必ず単独親権の定めをすることとされています(改正民法819条7項)。

  イ 父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき。

  ロ  父又は母が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき。

  ハ 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受ける恐れの有無などの事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき※

  ※ 殴る・蹴る等の身体的な暴力を伴う虐待・DVに限定されません。

A 共同親権として決められたときは、父母はどうやって共同して親権を行使することになるのですか?

B 父母双方が親権者である場合の親権の行使方法のルールが明確化されています(改正法824条の2)。ちょっと長くなりますが、がまんして聞いてください。

 (1) 親権は、父母が共同して行います。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他方が行います(単独行使)。※

 (2) 次のような場合は、親権の単独行使ができます。

  イ 監護教育に関する日常の行為をするとき ※※

  ロ こどもの利益のため急迫の事情があるとき※※※

 (3) 特定の事項について、家庭裁判所の手続で親権行使者を定めることができます。

※ 民法改正前は、(1)のみが規定されており、(2)と(3)については規定がありませんでした。また改正民法下で(3)の場合に家庭裁判所がどのような親権行使者決定審判を出すかはまだ詳細が明らかにされていません。

※※ 監護教育に関する日常の行為の例

   日々の生活の中で生じる監護教育に関する行為で、子に重大な影響を与えないものをいいます。個別具体的な事情によりますが、例えば、①日常の行為に当たる例、②当たらない例としては、次のような場合があります。

 ① 日常の行為に当たる例(親権単独行使可)

   食事や服装の決定

   短期間の観光目的での旅行

   心身に重大な影響を与えない医療行為の決定

   通常のワクチンの接種

   習い事に関する決定

   高校生の放課後のアルバイトの許可

 ② 日常の行為に当たらない例(親権共同行使)

    子の転居 ※※※に該当するときは親権単独行使可能

    進路に影響する進学先の決定(高校に進学せずに就職するなどの判断を含む)

    心身に重大な影響を与える医療行為の決定

    財産の管理(預貯金口座の開設など)

※※※子の利益のため急迫の事情があるときの例

   父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては親権の行使が間に合わず、子の利益を害するおそれがある場合をいいます。急迫の事情があるときは、日常の行為にあたらないものについても、父母の一方が単独で親権を行うことができます。

例えば、急迫の事情の例としては、次のような場合が考えられます。

  ・ DV(モラルハラスメントを含む)や虐待からの避難(子を連れての転居などを含みます)をする必要がある場合(被害直後に限りません)

   子の転居は、②で説明したように親権共同行使対象事項ですから、この判断には慎重を要します。

  ・ 子に緊急の医療行為(中絶行為を含む)を受けさせる必要がある場合

  ・ 入学試験の願書提出や結果発表後に入学手続の期限が迫っているような場合 など

 次回その2では、いったん決まった親権者の変更や離婚後の監護について勉強しましょう。

A はい、よろしくお願いします!