あなたの知り合いで4月1日生まれの人はいますか。
 その人は早生まれでしょうか?
 今日のコラムは、人はいつ年をとるか(満年齢となるか)ということを取り上げたいと思います。
 ただし、法律の説明は複雑になるので、結論を中心に記述することにします。
 離婚判決、家事調停、家事審判、公正証書、私的合意書などで、離婚後に未成熟児に対して支払う養育費が定められることはよくあることです。
 たとえば、法務省のウェブサイトに掲載されている子どもの養育に関する合意書(記入例)では、離婚した元夫が親権者である元妻に両者間の子の養育費を支払う合意として次のような記載になっています。
 子 2014年5月1日生まれ
 支払期間は、2023年2月1日から子が22歳に達した後に初めて到来する3月末日まで
 これによると子が22歳になるのは2036年3月末日より後なので、その後初めて到来する翌年2037年3月31日が最終支払日になります。
 では、子の誕生日が2014年4月1日であった場合はどうでしょうか。
 法務省の成人年齢に関するウェブサイトでは
 「18歳の誕生日に成年に達することになります。」という説明があります。
 この説明のとおり、22歳に達する日が誕生日(2036年4月1日)だとすると、その後に初めて到来する3月末日というのは、2037年3月31日になります。
 しかし、参議院法制局のウェブサイトには
 「4月1日生まれの子どもは早生まれ?」というテーマでの解説があり、3月31日限りをもって満6歳になるので4月1日生まれの子どもは早生まれであるという説明がされています。
 後者の見解に立つ、次のような最高裁判所判決もあります。
 「明治45年4月1日生まれの者が満60歳に達するのは、右の出生日を起算日とし、60年目のこれに応当する日の前日の終了時点である昭和47年3月31日午後12時であるが、日を単位とする計算の場合には、右単位の始点から終了点までを一日と数えるべきであるから、右終了時点を含む昭和47年3月31日が勧奨退職に関して右の者が満60歳に達する日である。」(最高裁判所判決昭54年4月19日判例時報931号56頁)
 この判決では、「3月31日限り」の解釈としては、3月31日午後12時は、3月31日に含まれるということとされています。
 私が裁判官を定年(65歳)で退官したときの退官辞令は、誕生日である7月1日付けではなくその前日である6月30日付けとなっていたのは後者の見解に立ったものです。
 このように、国民の一般常識と法律の解釈が異なる場合であっても、法律上は後者が優先しますので、養育費を定めるときに注意が必要です。
 もっとも、法務省ウェブサイトにある「22歳に達した後に初めて到来する3月末日」という表現は、次のような場合には、子が22歳に達した年である2036年の3月31日であるのか、初日不算入とする民法の大原則から2037年3月31日とするかについては、解釈の余地があります。
 誕生日が3月31日である早生まれの子の場合は、同じ月の31日が養育費の支払期間の終期になるのは明らかです。
 誕生日が4月1日である早生まれの子の場合はどうでしょうか。
 法律用語としては、「後」は基準となる日を含まず、「以後」「以降」は基準となる日を含むとされています。(林大ほか1名著「法律類語難語辞典 新版」83ページ)
 ですから、「22歳に達した(この子の場合は3月31日)後に初めて到来する3月末日」は、翌年の3月31日となります。
 したがって、4年生大学卒業後1年間養育費の支払が伸びていることになります。
 誕生日が一日違うだけで養育費の支払期間に1年間の違いができてしまうのは、4年生大学卒業までは支払うとの当事者の意思に反しているのではないでしょうか。
 結論としては、支払期間の最終日を定める際には、
 A「子が22歳に達した後に初めて到来する3月末日まで」とするのではなく、
 B「子が22歳に達する日の属する月の後に初めて到来する3月の末日(22歳に達する日の属する月が3月となる場合は当該3月の末日)まで」
 あるいは確定日を記載して
 C「●年の3月末日まで」とすべきでしょう。
 Bはいかにもわかりにくい表現ですし、判決などが、Aのような記載になっているのは、公文書では元号を使うのが慣例となってきたところ、最終支払日には元号が変更されていることがありうることによるものだろうと思います。
 日本経済新聞2018年8月20日[会員限定記事]は、「政府は2019年5月1日の新元号への切り替えに関し、公文書への西暦表記を義務付けない方針を固めた。和暦と西暦を併記したり、西暦に統一したりする方針は示さず、各省庁や自治体の個別の判断に委ねる。」と報道しています。
 私は、
 D「元号●年(西暦●年)の3月末日まで」
という表現が一義的に明確で、分かりやすいので最もふさわしいと考えています。

 このように、「いつまで」といった基本的と思われることでも、一般常識と法律の解釈が一致していないことがあります。養育費をはじめ、何かを取り決めるときには、是非、当事務所にご相談ください。

 弁護士 松田 清