未成年者が児童相談所に一時保護されて以来、現在に至るまで、未成年者を現実に監護養育していないこと、親権者が権利者から義務者に変更する審判がなされたこと等を踏まえ、離婚判決によって定められた養育費額を、審判申立日を始期として取り消した事例
【東京高裁令和4年12月15日決定 家庭の法と裁判53号74頁】
養育費(減額)審判に対する抗告事件
X(父):相手方
Y(母):抗告人
【事案の概要】
平成19年5月 |
X・Y、婚姻 |
平成20年 |
未成年者、出生 |
平成22年6月 |
Yが提起した離婚訴訟で判決(XとYを離婚する、未成年者の親権者をYと定める)→Yが控訴 |
平成22年12月 |
控訴審判決(①控訴棄却、②Yの反訴請求に基づき、XとYとを離婚する、③未成年者の親権者をYと定める、④Xは、Yに対し、毎月末日限り、判決確定の日の翌日から平成40年●月●日まで1か月金16万円の割合による金員を支払え(主文第4項)) |
令和3年9月 |
未成年者、児童相談所に一時保護 |
令和3年11月 |
X、Yを相手方として親権者変更調停申立て |
令和4年5月 |
X、Yを相手方として本件養育費減額審判申立て |
令和4年9月 |
未成年者の親権者をYからXに変更する旨の審判(本件判決時、東京高裁係属中) |
【争点】
①民法880条が定める事情の変更の有無
※民法880条「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。」
②家庭裁判所による養育費変更の始期
【裁判所の判断】
「家庭裁判所は、養育費に関する判決が確定した場合であっても、その判決の基礎とされた事情に変更が生じ、従前の判決の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には、事情の変更があったものとして、その変更又は取消しをすることができる(民法880条)。」
「前記認定事実によれば、Yは、令和3年9月●日に未成年者が児童相談所に一時保護されて以来、現在に至るまで、未成年者を現実に監護養育していないこと、横浜家庭裁判所は、令和4年9月●日、未成年者の親権者をYからXに変更する旨の審判をしたことが認められる。
Xに対して未成年者の養育費として月額16万円をYに支払うよう命じた前件判決主文第4項は、実情に適合せず相当性を欠くに至ったと認められるので、これを取り消すのが相当であり、取消しの始期については、具体的な養育費分担義務は審判によって形成されるものであることに加え、未成年者は、令和3年9月●日時点では児童相談所に一時保護されたにとどまることなどの本件における事情の下では、Xが横浜家庭裁判所に対して本件養育費減額審判を申し立てた令和4年5月●日からとするのが相当である。」
【コメント】
①事情変更の有無
児童相談所による一時保護は、原則として開始日から2月であるところ(児童福祉法33条3項)、児童相談所長等が、必要があると認めるときは、引き続き一時保護を行うことができる(同条4項)。本件では、1年以上にわたって一時保護が継続されたことが重視され、事情変更が認められた。仮に一時保護が2月で終了し、Yによる未成年者の監護が再開された場合には、事情変更が認められない可能性がある。
②養育費変更の始期
原審(横浜家審令和4年8月26日)は、事情変更時(未成年者の一時保護の開始日)である令和3年9月以降の養育費について変更したが、本件は、具体的な養育費分担義務は審判によって形成されること等を踏まえ、請求時(申立日)とした。