最近、高齢者等の財産管理や資産承継のために、民事信託(家族信託)を利用する人が増えています。
 「信託」というと、信託銀行を思い浮かべる方も多いと思います。この信託銀行が受託者となる信託を「商事信託」といいますが、これと異なり、委託者の家族を受託者とするのが「民事信託」です。民事信託のことを「家族信託」とよぶこともあります。

 民事信託は、

① 委託者が、信託目的を定めて、信託行為(信託契約・遺言・信託宣言)により、家族の中でもっとも信頼のできる者(受託者)に財産を移転し
② 受託者は、その信託財産を信託目的に従って受益者のために管理・処分し
③ 受益者は、受益権を取得して、信託の利益を享受する

というものです。

 この民事信託という仕組みを使うと、次のようなことが可能となります。

① 認知症等になったときに利用される法定後見や任意後見といった成年後見制度の下での財産管理では、被後見人の財産の保全が重視されるために、不動産の買い換えや生前贈与による相続税対策などは困難とならざるを得ません。これに対し、民事信託では、信託財産とした不動産の買い換えや新たな不動産の購入等により信託財産の有効活用等が可能となります。さらに、生前贈与等の相続税対策も可能となります。

② 遺言では実現できないような遺産の承継もできます。たとえば、夫が妻と二人で住んでいた自宅を、自分の死後は妻に相続させるが、その後に妻が亡くなったときは、先妻との間にできた子供に相続させたいと希望したとしても、夫の遺言だけではこれを実現させることができません。しかし、民事信託で遺言代用信託を利用すると、それが可能となります。このように遺言によらずに子孫等へ自己の意図した財産承継ができるのです。

③ 30年以上にわたる財産管理を行う信託も設定できます。たとえば、先祖代々受け継いできた土地を、自分の死後は長男に相続させ、長男の死後は長男の子供に相続させて、できるだけ自分たち一族以外の者の手に渡らないようにしたいという場合、民事信託の後継遺贈型受益者連続信託という仕組みを使えば、これが可能となります。

④ 親亡き後の障害のある子の生活支援のための信託を設定することもできます。

⑤ 株式の信託によって事業承継にも民事信託を活用することができます。

 民事信託は、このように、委託者や家族の状況に応じて、その内容を柔軟に設計できることから、その有用性は高く、法定後見や任意後見さらには遺言を補完し、あるいは、これに取って代わるものとして、今後も民事信託を利用する人が大きく増加してくることが予想されます。

 しかしながら、この民事信託は、平成18年の信託法改正によりその活用に途が開かれ、最近になり多くの民事信託が作成されるようになってきたのですが、法的な論点も多いという状況のなかで、日々新たな信託条項やスキームによる信託が作成されています。そのため、法的に問題を含んだ信託契約も少なからずあると推測されます。実際、信託契約の有効性が争われた事例に関する裁判例も出てきております。そのため、民事信託を利用する場合には、これに詳しい専門家に依頼することが必要といえます。

 自らの財産管理や子孫への資産承継のための備えとして、民事信託を選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか?