真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても,表見相続人は,真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるとした事例
[最高裁2024(令和6)年3月19日判決 判タ1523号93頁,家庭の法と裁判53号41頁]
[事実の概要]
- B は,平成 13 年 4 月,甥Y1,A,養子Xに遺産を等しく分与する旨の自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
- B は,本件不動産(土地・建物)を所有していたが,平成16 年 2 月 13 日に死亡した。B の法定相続人は,Xのみである。
- Xは,平成 16 年 2 月 14 日以降,所有の意思をもって,本件不動産を占有している。Xは,当時,本件遺言の存在を知らず,本件不動産を単独で所有すると,過失なく信じていた。
- Xは,平成 16 年 3 月,本件不動産につき,X単独名義の相続を原因とする所有権移転登記をした。
- Y2 ・ Y3 は,平成 31 年 1 月,本件遺言の遺言執行者に選任された。
- Xは,平成 31 年 2 月,Yら及び A に対し,本件不動産に係る Y1 及び Aの各共有持分権につき,取得時効を援用する旨の意思表示をした。
- X は,Yらに対し,本件不動産について,Y らの X に対する Y1 及び A への持分移転登記請求権が存在しないことの確認等を求めて提訴した。
- 一審の東京地裁,原審の東京高裁とも,X は,Y1 及び A の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても,Y1 及び A が取得した相続財産の所有権を時効により取得することができるとした。Yらは上告した。
[判決の概要]
上告棄却
「民法 884 条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は,相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある(※中略)ところ,上記表見相続人が同法 162 条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず,真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより,当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは,上記の趣旨に整合しないものというべきである。」
「以上によれば,上記表見相続人は,真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても,当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるものと解するのが相当である。このことは,包括受遺者が相続回復請求権を有する場合であっても異なるものではない。」
したがって,Xは,本件不動産に係る Y1 及び A の各共有持分権を時効により取得することができる。
[コメント]
民法884条は,相続回復請求権の消滅時効について規定しているが,その完成前に,表見相続人が,所有権の取得時効(同法162条)の成立に必要な期間,相続財産を占有することが生じ得る。この場合,表見相続人が相続財産の所有権を時効により取得することができるかについて,従来から議論があった。
本判決は,相続回復請求権の消滅時効と所有権の取得時効の関係について,最高裁において初めて判断を示したものである。